「非合理」な行動の裏にある人間心理を行動経済学で解き明かす『人は悪魔に熱狂する』

人間の行動は「非合理」
こんにちは、ライターのはまじんがーです。
今回のテーマは、行動経済学です。
ここ数年で注目されるようになった学問で、関連書籍なども多数出版されているので、聞いたことがある方も多いかもしれませんね。
行動経済学とは、人間の「非合理」な行動の原理を経済学的な観点から取り扱っている学問です。
それまでの経済学では人間を「合理的」な存在であることを前提としていましたが、それでは説明がつかない様々な行動が人間に見られることから、行動経済学が生まれました。
今回の記事では、そのような人間の”非合理な”行動の事例を、データサイエンティストの松本健太郎さんの著書『人は悪魔に熱狂する』を参考に3つ紹介します。
日常生活の様々な場面で、
「なぜ自分はこんなことをしてしまうんだろう?」
「なんであの人はあんなことをするんだろう?」
と感じてしまうような行動を目の当たりにすることがあるかと思います。
・なぜ非合理な行動をとってしまうのか?
・非合理な行動を避けるためにはどうすればいいのか?
・非合理な行動から生まれる損失を回避するためにはどうすればいいのか?
といったことを、本記事を通して考えるきっかけにしていただければと思います。
それではいきましょう!
トピック1. 消費者の声に騙されたマクドナルド
最初のトピックは、「サラダマック」にまつわる事例です。
「サラダマック」とは、「野菜と果物を使ったカラダにやさしい新メニュー」をウリに2006年にマクドナルドが発売した商品です。
この商品が開発されたきっかけは、マクドナルドが消費者に対しアンケートをとった結果「もっとヘルシーなもの食べたいです」という声がたくさん上がったことです。
その声を意見を聞いた商品開発メンバーは、ヘルシーを具現化しつつ、マクドナルドらしいサラダとして「サラダマック」を開発しました。
消費者の声を反映して生まれた「サラダマック」。
しかし…期待に反してほとんど売れず、あえなく販売終了となりました。
「ヘルシーなものを食べたい」と多くのお客様が言ったにも関わらず、その希望を反映した商品がほとんど売れなかったのです。
なぜ、このようなことが起きてしまったのでしょうか?
この現象から読み取れるのは、人は少しでも自分をよく見せたいという願望が働いて、騙すつもりのない「キレイな嘘」をつくことがあるということです。
つまり、「ヘルシーがいい」というのは「建前」だったのです。
健康志向で、健康に気を遣っていると思われたい。
無意識にそのような心理が働いて回答した結果に過ぎないというわけです。
では、その「建前」の裏に隠れている「本心」は何か?
それを洞察した結果、人々がマクドナルドのハンバーガーに求めていたのは健康ではなく、「ときにはギルティーなものを食べたい」という欲求を満たしてくれる「背徳感」だったという結論にたどり着きます。
その心理を読み取ったマクドナルドは2008年に「サラダマック」の真逆をいく新商品、「クォーターパウンダー」を販売。
その結果、大ヒットしました。
この事例からわかるように、人は無自覚に嘘をついていることがあります。
人の言葉やアンケート、データなどを解釈するときには、鵜呑みにするのではなく裏に隠れている背景や心理を見極める「洞察力」が重要です。
トピック2. なぜバイキングで元を取ろうとするのか?
続いてのトピックは、バイキングです。
一定料金を支払うことで、用意されている食べ物を制限時間内なら好きなだけ食べられるバイキング。
食べる量が多かろうと少なかろうと、払う料金は同じ。
それならばと、払った料金分の元を取るために、とにかくたくさん食べようとする。
その結果、胃袋が破裂しそうになるくらい食べてしまい、食後に苦しい想いをすることに。
このような経験をした人も少なくないのではないでしょうか。
(自分もその1人です)
しかしこの行為、冷静になって考えてみればなんとも滑稽です。
バイキングに行く目的は、「おいしい食べ物を好きなだけ食べたい」という欲求を満たすためだと思います。
決して元を取るためでも、ましてや苦しい想いをするためでもありませんよね?
なぜ、苦しい想いをしてまで元を取ろうとしてしまうのか。
この行為には、「サンクコストバイアス」と呼ばれる心理効果が働いています。
「サンクコストバイアス」とは、投資したコスト(お金・時間・労力)が無駄になる恐怖から、これまで行ってきた行為を正当化するために、非合理な判断を行う状態を指します。
別の例を挙げるなら、たとえば開始10分で「つまらない」と思った120分の映画を、1900円払って見ているので残り110分見続けてしまう、というのも同じ心理効果によるものです。
すでに投じた1900円と10分(サンクコスト)は回収不可能なので、
「映画がこの先面白くなる可能性」と
「中断した場合に得られる110分の価値」
を比較するのが合理的な判断なのですが、多くの人はサンクコストを判断基準にして意思決定をしてしまうのです。
(買った本がつまらないにも関わらず、頑張って最後まで読もうとしてしまうのも同じですね)
サンクコストバイアスから逃れるには、投じたコストのことは一旦忘れてゼロベースで考えることが重要になります。
過去は変えられないのと同じように、一度投じたコストが戻ってくることはありません。
なので、コストを投じた過去に目を向けるのではなく、未来のためにどんな選択がベストかを考えるべきなのです。
バイキングの例なら、いくら払ったかは無視して、何をどれくらい食べれば食後の幸福感が最も大きくなるかを考える。
買った本がつまらなかった場合は、その本にいくら払ったかは考えず、そのまま無理して読み続けるのと、その時間で他のことをやるのとではどちらが良いかで考えるのが良いでしょう。
あなたの行動の中にも、「サンクコストバイアス」によるものはありませんか?
ぜひ一度振り返ってみてください。
トピック3. “ヤバイ”と思ったときには既に手遅れ?
3つ目のトピックは、「ヤバイ事実に向き合わない人がいる」という話です。
ここで取り上げる「ヤバイ事実」とは何かというと、世界の「地球温暖化問題」です。
2018年、当時15歳のグレタさんという女の子が「あなたがた大人が私の未来を台無しにしようとしている」と主張し「気候のための学校のストライキ」を行いました。
地球温暖化に関しては「地球の周期なのではないか」といった意見もありますが、事実として気温は上がっています。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書では、
・世界の平均気温は産業化以前に比べて1.0℃上昇しており、このペースで上昇し続けると2040年には1.5℃に達する
・海面水位の上昇、生態系の破壊、食料や水資源への悪影響は計り知れない
・地球温暖化を1.5℃以内に抑えるには、世界全体の二酸化炭素排出量を、2030年までに45%減少、2050年には100%減少しなければならない(2010年と比較した場合)
という事態になっていることが述べられています。
このように、客観的な事実として地球温暖化は進んでおり、世界各国でCO2の排出を減らそうという動きも起きています。
それにも関わらず、
「地球は温暖化していない」
「地球温暖化は陰謀だ」
という説を唱える人がいます。
客観的なデータがあるにも関わらず、それを受け入れない人がいるのです。
これには、「正常性バイアス」という心理効果が働いていると思われます。
「正常性バイアス」とは、都合の悪い情報を無視し、「まだ大丈夫」とリスクを過小評価してしまう傾向のことです。
分かりやすく言うと、「ヤバイことが起きた時に過小評価をしてしまう」ということです。
身近な例で言えば、朝寝坊をしてしまい、すぐに準備しないと間に合わないのに「まだ大丈夫だ」とか「駅まで全力疾走すれば間に合う」とか言って布団を出る時間を引き伸ばし、その結果、電車に乗り遅れて遅刻をする、みたいなケースです(自分も数え切れないほどやらかしました)。
「まだ大丈夫」と感じているときにはすでにヤバイことになっているということは、「ヤバイ」ことを自覚するほどの事態になっているときにはすでに手遅れになっている可能性が高いとも言えます。
つまり、「まだなんとかなる」と思っている時こそ、ネガティブに考えて早く手を打つことが重要というわけです。
非合理な行動を受け入れることで人としての器が大きくなる
以上、今回の記事では行動経済学のトピックを3つ紹介しました。
ここまで見てきたように、人間は決して合理的に行動する生き物ではありません。
そのことを認識できていれば、
「なぜ自分はこんなことをしてしまうんだろう?」
「なんであの人はあんなことをするんだろう?」
と思われるような行動も少し俯瞰して見ることが出来るようになり、自分や他人の非合理な行動に過剰に一喜一憂することもなくなるのではないでしょうか。
それは目の前の事象に感情的に反応することが減るということなので、人としての器が大きくなることにつながると私は思っています。
人間は、みんな非合理。
むしろその「非合理性」こそが、人間の面白さの1つなのかもしれませんね。
(「合理的」な行動しか取らない人間なんて「つまらない」と思いませんか?)
その「非合理性」を現す事例についてもっと学びたい方は、今回参考にした書籍『人は悪魔に熱狂する』をぜひお読みになってみてくださいね。
それでは、今回の記事は以上です。
お読みいただき、ありがとうございました。
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