なぜ倒産?コダックの盛衰から学ぶイノベーションのジレンマ

キャリア

今回はビジネス用語である「イノベーションのジレンマ」を実例とともにご紹介します。

勢いのある大企業が、とあるきっかけであっという間に衰退してしまった。そんな事例があることを存じでしょうか。そのきっかけこそが「イノベーションのジレンマ」です。

その例として、かつて写真・映画フィルム業界を席巻した企業の「Kodak」を取り上げます。Kodakは1881年に創業しフィルム業界を寡占するほどに成長したアメリカの大企業。創業100年で売上100億ドルを突破し、世界的に有名な「コダックモーメント(写真に残しておきたい価値ある瞬間)」という造語ができるほどの影響力を持ちました。

しかしその長い歴史で培った技術や経営ノウハウがあったにもかかわらず、なんと2012年に倒産してしまいます。

なぜ倒産したのか、その理由であるイノベーションのジレンマとは何か、過去の出来事からビジネスの教訓を学んでいきましょう。

倒産した【Kodak】とはどんな企業だったのか?

イノベーションのジレンマについてお話する前に、Kodakについてご説明します。創業は1881年。当時はフィルムの前身となる「乾板」を開発販売するアメリカの企業でした。乾板はガラスに写真用の感光剤を塗って、カメラで写真を記録するために用いるものです。

この感光剤をガラスではなく紙やセルロイドに塗って使うようになったものが、私達のよく知る「フィルム」の前身です。乾板はかさばり、またガラスも割れやすいことから扱いが難しいものでしたが、Kodak製のフィルムの登場で写真撮影の文化が一気に拡大します。

さらにKodakは、ロール型のフィルムがセットされたカメラも発売。さらに、「撮影が終わったフィルムカメラをKodakへ送ると、現像された写真と新しいフィルムがついたカメラを送り返してくれる」といったアフターサービスも行ったため、「撮影・現像・印刷」といった写真市場を統合的に取り込んでいくこととなりました。

またKodakはカメラ本体を安くしてフィルム代で稼ぐ、「レーザーブレード戦略※1」を取りました。これは最初に提供される製品を安くして、付随する消耗品や保守点検で儲ける業態のことです。

こうしたビジネスモデルによって1974年時点でアメリカ国内フィルム市場の90%を、カメラ市場の85%を占める一大企業へ成長しました。

ですが、前述の通り「イノベーションのジレンマ」により衰退していきます。そのきっかけとなったのが「デジタル技術」の登場でした。このデジタル技術によってKodakはどうなったのかご説明する前に、まずはイノベーションのジレンマについてご紹介します。

※1 カミソリで有名な「Gillette」によってカミソリ本体を安くし替え刃で稼ぐモデルができたことから「レーザーブレード戦略」と呼ばれています。

イノベーションのジレンマとは?ジレンマに陥る3つの理由

それでは表題であるイノベーションのジレンマについてご説明します。これは業界トップに上り詰めた企業が、

「従来の顧客の意見に耳を傾け、さらに【既存の技術や製品】による高品質なサービスを提供しようとする」

このことがイノベーション(技術革新や改革)の失敗を招くという考え方です。経営学者のクレイトン・クリステンセンによって提唱されました。端的に言えば、「旧来のビジネス形態や過去の栄光に囚われている」状態といっていいでしょう。

この考え方では以下の3つの理由によって、企業はイノベーションのジレンマに陥るといわれています。

1:破壊的技術が登場するも軽視してしまう

破壊的技術とは、現行製品よりも低品質であるものの、顧客のニーズを掴んでいる【新たな技術】を指します。すでに市場での成功をおさめている企業は低品質な製品に興味を示さない傾向があり、破壊的技術に存在するニーズを軽視してしまうことがあるのです。

そしてその新たなニーズが拡大を見せると、現行製品よりも性能・価格的に劣った製品が市場を席巻してしまう現象が起こります。これは破壊的イノベーションといい、技術革新を起こせなかった企業はこの破壊的技術に立ち遅れる事態となってしまうのです。

つまり、「既存技術へのニーズばかりに気を取られ、新たな破壊的技術を軽視してしまい、新たなニーズを獲得できない」という状況が発生します。旧来・新規、どちらのニーズも重要ですが、「成長が見込まれる技術を軽視して新たなニーズを取りこぼす」ことが後の変革や技術刷新の失敗へとつながるのです。

2:技術開発が市場のニーズを上回る

大企業は技術開発を続けていくため、業界トップに立ってもハイエンド技術を追い求めていくことになります。ところが、その技術が市場のニーズを超えてしまうことがあるのです。どんなに優れた技術であってもニーズのないものは売れませんよね。

この理論によれば、大企業はそれまでに培った技術開発を止めることができないといいます。そして前述の「低品質であるものの、顧客のニーズを掴んでいる技術」に市場を奪われることになってしまうのです。

3:市場への参入タイミングを逃す

前述の破壊的技術はどんなにニーズを満たすものであっても、大企業にとって投資を魅力的に感じるかどうかは別問題です。成長過程で利益率が低かったり、市場規模があまりにも小さい場合は大企業にとって魅力的に映らない場合が多いのです。

特に企業用具説(企業は株主が稼ぐための道具)という考えが強いアメリカでは、株主の利益を最優先させる傾向にありました。だからこそ市場価値を見誤り、新規事業への参入タイミングを逃してしまうといいます。

 

このように、「大企業になると革新性を失ってしまう状態・最先端の技術開発をしても成功に結びつかない状態」がイノベーションのジレンマと呼ばれています。

Kodakにおける破壊的技術は「デジタル」でした。ではなぜデジタルの登場によって、Kodakはイノベーションのジレンマに陥ってしまったのでしょうか?

Kodakがイノベーションのジレンマに陥った3つの理由

デジタル技術を流用したデジタルカメラは1980年ごろから市場に顔を見せるようになります。当時Kodakはフィルムカメラで莫大な収益を上げていました。ではなぜイノベーションのジレンマに陥ってしまったのでしょうか。

1:デジタル技術を軽視した

今でこそ当たり前となったデジタルカメラ。今ではスマートフォンで写真を撮る時代です。ですがデジタルカメラがの登場時は1万画素程度と非常に画質が悪く、さらに撮影できる枚数も少なく、記録媒体も高価でした。

実はデジタルカメラを世界で初めて開発したのはKodakなのですが、にもかかわらずデジタルの世界へ舵をきらなかったのです。低品質でフィルムカメラに比べて扱いづらいデジタルカメラがその後世界の覇権を握るとは、当時はまだ考えられていませんでした。

2:ニーズの減少し始めたフィルム市場へ固執した

Kodakはアメリカだけでなく世界中のフィルム市場を席巻していました。さらにフィルム市場は大手企業4社による寡占状態で、競争相手も殆どおらず、事業は盤石であるように多くの関係者が感じていたといいます。それまで莫大な利益を上げてきたもののデジタルの登場でニーズは減少し始めていた写真・映画フィルム事業に変わらず重点をおき、また新たなフィルム製品開発も継続して続けていました。

前述の通り世界初のデジタルカメラを開発したKodakはその後も高品質なデジタル製品を開発してはいたのですが、肝心のKodakマーケティング部門がそれを軽視。1980年頃から始まった業界におけるデジタル製品への移行を主軸に置くことはありませんでした。

デジタル技術の投資はもちろん行っていましたが、その目的はあくまで「フィルムカメラの品質へ近づける」こと。デジタル製品がカメラ市場で主力の商品になるとは考えられていなかったのです。デジタルカメラ市場自体は「手軽さに撮影できる」という商品開発へシフトしていったこともあり、Kodakは時代の潮流から逸れていくことになります。

3:デジタル市場のアンバンドル化に倣えず本格参入できなかった

前述のレーザーブレード戦略やアフターサービスにもある通り、Kodakは市場を統合的に取り込む手法を続けていました。デジタルカメラだけでなく独自規格の保存媒体も開発販売してはいたのですが、その後も定着はしなかったのです。

デジタルの世界では「アンバンドル化」が進んだといいます。これはソフトとハードの開発は別戦略で行うべきという考え方ですが、Kodakは守旧的でソフトとハードを一体化した統合的戦略を取り続けてしまったのです。

Kodakはデジタル市場を軽視していたことで進出が遅れ、なおかつ事業戦略も独自の統合路線を貫いてしまったことで、新たな市場では競争力が失われてしまったといいます。フィルム市場とは異なり数多のハード・ソフト開発会社が新規参入を行っていたことから競合他社は多く、Kodakのネームバリューも効果を発揮できませんでした。

 

これら3つの理由により、Kodakはイノベーションのジレンマに陥ってしまったといわれています。

過去から学んでリスクヘッジしよう

今回はイノベーションのジレンマに陥った企業例として「Kodak」をご紹介しました。100年以上の歴史を持つ大企業であってもあっけなく倒産してしまったこの事例に、事業転換や時代の潮流を読む大切さが感じられるかと思います。

ちなみにKodakは2012年に倒産するも、翌年には印刷業界で再出発しました。実は前述の企業用具説では「収益の挙げられないビジネスはすぐ畳むべき」という理念があり、倒産自体は重く受け止められていなかったという背景もあります。

また、同時期にフィルム市場で寡占企業の一角を占めていた「富士フイルム」は多角化に成功し、医薬品・化粧品・再生医療などフィルム市場からスムーズな移行を見せ成長を続けています。同じ業界でも戦略によっては生き残ることができました。

企業における成功の形は組織ごとに異なります。だからこそ成功は時の運で、確実なものはありません。ですが過去の失敗を参考にしてリスクを避けることはできるでしょう。今回の事例を日々のビジネスのご参考にされてみてはいかがでしょうか。

 

参照:
DIAMOND
幻冬舎
career tanq
globiz university

yuya

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